インフルエンザに関するあれこれです。

このページは情報が多く画像が大きいため、携帯電話で見るのはちと辛いです。できればPCでご覧下さい

人類とインフルエンザのつきあいは非常に長く、古くは古代エジプトの記録にもそれらしい記述が見られます。そして21世紀の今でも、いまだ人類にとって最大級の疫病の一つです。ここではインフルエンザの基礎知識から、診断・治療・予防にまつわる知識をまとめました。  

インフルエンザとは

インフルエンザ(influenza)は(主として)気道感染症であり、広い意味ではカゼの一種です。非常によくある病気ですが、特定の時期に流行する性質があり、我々の小さな診療所でも毎年冬はインフルエンザの患者さんでごった返します。

しかしインフルエンザは、一般に我々が “カゼ” として考える病気より遙かに重く強い症状が出ます。その意味で普通の“カゼ”とは分けて考えるべきです。しばしば死亡例も経験されます。では、実際どの位怖い、つまりどの位死者が出るのでしょうか?

インフルエンザは社会にとってどの位ヤバイか

これはなかなか難しい問いです。「どんな基準でインフルエンザによる死者数を数えるか」によって、大きく変わってしまうからです。

最も単純には、ヒトの死因は死亡診断書に記載される訳ですから、死亡診断書を集めれば容易に分析ができそうに見えます。でも実際にはそう簡単にはいきません。

たとえば、インフルエンザにかかった老人が肺炎になって亡くなったとします。この場合、死亡診断書の死因欄には何と書かれるでしょうか。インフルエンザ? 肺炎? 実はどちらもあり得ます。どっちを書いても「死因」として正しいので、どちらを書くかは結局診断書を書く医師の裁量によります。

が、これでは統計を取る時に困ります。前者は「インフルエンザによる死亡1例」と数えられ、後者は数えられません。これではいくら死亡診断書を集めても、インフルエンザによる死者数を正確に把握する事はできません。

そこでWHOにより、「超過死亡」という概念が提唱されました。これはインフルエンザが流行したことによって社会の総死亡がどの程度増加したかを示す推定値で、 死亡診断書の死因欄の記載は問わない考え方です。日本の国立感染症研究所などもこの方法で死者数を数えています。この値は、直接的・間接的にインフルエンザによって生じた死亡者数の総計という事になり、 死亡診断書の記載のブレを吸収した、より実態に近い値、と“一応”考える事ができます。ではそれは一体、何人なのでしょうか。

インフルエンザによる死亡者数

このグラフは2010年までの、日本でのインフルエンザによる死亡者数推移を見たものです。茶色い棒グラフは「死亡診断書的なインフルエンザ死亡者数」で、ピンクは「超過死亡概念による死亡者数」です。両者には大きな解離がある事がわかると思います。例えば2005年はインフルエンザによって、「死亡診断書的には」1,818人が亡くなった訳ですが、「超過死亡としては」15,100人が亡くなった事になります。単に「インフルエンザによる死亡者数」を調べると、資料によって「数百人」と書いてあったり「1万人以上」と書いてあったりしててんでバラバラな値が出てきますが、それはこの為です。どちらの定義で死者数をカウントしてるのか言わないと意味がありません。そこでさっきの答ですが、「超過死亡概念で数えると、(暦年にも依るが)毎年日本で1万人は死ぬ」となる訳です。当院で配付してる資料では、なるべく国際基準に合わせた「超過死亡概念による」死者数に統一してお知らせしています。

ま、どちらの数え方を採用するにしても、実際には死亡者数に数百倍する(死亡率0.1%程度として)感染者、そして中には重症者がいる、という事実は忘れてはなりません。そしてそんな病気が、毎年はやるのです。

インフルエンザウィルスについて

インフルエンザはウィルスによる感染症

インフルエンザの原因はインフルエンザウィルスの感染です。

インフルエンザウィルスにはA,B,Cの3型がありますが、C型インフルエンザは臨床上あまり大きな問題にならないのでここでは無視します。つまり我々が普通に「インフルエンザ」と言う時、それはA型・B型の事を言っている訳です。本稿でも以下そのように扱います。

インフルエンザウィルス 電子顕微鏡写真

上図の左側はインフルエンザウィルスの電子顕微鏡写真、右はウィルス粒子1ヶを拡大・図示した物です。このようにインフルエンザウィルスは、マルにトゲトゲが沢山ついたような形をしています。

このトゲトゲは2種あり、それぞれ「ヘマグルチニン(略称:HA)」「ノイラミニダーゼ(略称:NA)」と呼ばれます。これらのトゲトゲは糖蛋白でできていて、インフルエンザウィルスが生体細胞内に侵入・増殖する際に重要な働きをします。

このHA・NAにはいくつか種類があり、それが異なるとウィルスとしては“別種”という事になるのですが、HA・NA共に変異が大きく(≒ ウィルスが「子供」を生む時に少しずつよく変わる、という事)、従ってインフルエンザウィルスは1世代毎に細かい種類分けがやたら増えていきます。我々ヒトの作る免疫はウィルスの「種類ごと」に対するものですから、同じ種類のウィルスには効きますが、大きく変異し別種となったインフルエンザウィルスには基本的に効きません。これが毎年毎年インフルエンザが流行し、それに我々がいちいち感染してしまう理由です。

「ソ連型」とか「香港型」って何?

これらの呼称はA型インフルエンザに対する分類の一種です。A型インフルエンザウィルスは特にHAとNAの変異がとても多く、細かいとこ無視してもこれまでにHAについて16種類、NAについて9種類の「大きな種類分け」が見つかっており、ウィルス種によりそのどれを持っているかがまちまちなのです。HAの種別を「H1~H16」、NAの種別を「N1~N9」と数字を付けて表記しますが、この順列組合わせによりA型インフルエンザには「H1N1」から「H16N9」まで、16×9=144種類の分類(“亜型”と呼ぶ)がある事になります。ただし実際にはその全てがヒトにとってお馴染みなわけではなく、よく流行する亜型とそうでない亜型があります。例えば以下の通りです。

  • H1N1・・・1977年にソ連で登場、以降2008年まで流行した → 「ソ連型」と呼ぶ
  • H3N2・・・1968年に香港で登場、以降2011年現在まだ流行中 → 「香港型」と呼ぶ
  • H5N1・・・いわゆる「強毒性トリインフルエンザ」。ヒトではまだ流行はしてない

ただし、同じ亜型でも遺伝子型により更に細かい分類があります。2009年にメキシコで(?)登場したいわゆる「新型」インフルエンザは、H1N1亜型の一種ですが、「ソ連型」とは遺伝子型の異なる、別種のH1N1亜型です。ややこしいでしょ?

2009年、H1N1は「ソ連型」から「新型」に置き換わった

一般にインフルエンザでは、ある亜型に(遺伝子型的な)新種が登場すると、同じ亜型の古い種が消えていく傾向が経験的に認められています。2009年の「新型」登場でも事情は同じで、2008年まではH1N1として主流だった「ソ連型」は消えてしまい、その座はほぼ「新型」のH1N1に置き換わりました。今ではH1N1と言えば「新型」の事だと考えていいと思います。

ま、という訳で、ホントは2011年9月現在、もうこの「新型」ウィルスは新しくも何ともなく、普遍的なウィルスになってしまっているんで、「新型」と書かずに“A/H1N1 pdm”と表記する事になっているのですが、本稿ではわかりやすさのために今暫く「新型」と表記する事にします。

インフルエンザの流行について

過去10年間のインフルエンザ流行状況

マニア受けする話はこの位にして、実臨床で重要な話にシフトします。上のグラフは2001~2011年にかけての、「イチ定点あたりのインフルエンザ患者報告数」の週毎グラフです。「定点」とは流行状況を把握するために指定された全国約5000ヶ所の医療機関の事で、「今週何人のインフルエンザ患者がいたか」を毎週レポートしています。グラフはここから無断でパクった(2011/09/23時点)ものですが、ウチも協力医療機関の一つなので許してね。

このグラフの読み方ですが、縦軸はその日本全国から報告された総患者数を「イチ定点につき」に平均化した値です。つまりこれが「1」なら、全国平均で1定点あたり1週間に1人のインフルエンザ患者がいた、という意味になります。ちなみにこの値が10以上になると「流行注意報」となり、30以上になると「警報」となります。一旦警報レベルの流行があると、この値が10を切るまで警報は解除されません。

横軸の数値は「その年の第x週」を表し、たとえば「1」は元日を含む週、「52」とか「53」は大晦日を含む週です。1~5あたりは1月、5~8あたりが2月、...って事になりますね。

さてこれを踏まえて、年ごとの流行状況を見てみると、大雑把に言って「冬に流行る」とは言えるが、年によって流行の規模もピークの来る時期も、かなり変わる事がわかると思います。

流行の開始は大体第50週(12月半ば頃)からで、ピークは大体第4~6週(1月末~2月前半)になる事が多いですが、3月以降春になってから急に増える年もあります。2009年は「新型」が出ましたので、全然冬じゃない時にピークが来たりしました。このバラツキが、特に最適な予防接種時期を決める際に答を難しくします。

もっとも、「冬に流行る」と思ってるのはウチらが日本人だからで、例えば熱帯・亜熱帯地域では、インフルエンザのピークは「雨季」です。地球上にゃ四季なんてない所も多いしね。

インフルエンザの症状

典型的なインフルエンザでは、潜伏期は感染後1~2日間程度と短く(文献では最長7日とされているが、そんなのほとんど見かけません)、いきなり38℃以上の高熱が出現、同時に頭痛・全身倦怠感・筋肉痛・関節痛などの全身症状が現れます。どの位いきなりかと言うと、朝元気に学校行った子が昼にはほぼ40℃で帰されたって位です。

いわゆる「カゼ症状」、即ち鼻汁だの咳だのは、あまりの熱の悪化スピードに置いてかれてしまい、むしろ1~2日してからゆるゆる現れてくる印象です。基本は気道症状ですが、腹部症状(嘔気・腹痛等)もしばしば合併されます。

自然経過(ワクチンもうたず、抗ウィルス薬も使わない場合)としては1週間程度です。この間は何しても熱はとれません。体力勝負です。21世紀の現代でもしばしばこういう人とか、こういう人とかいますが、覚悟してね。毎日40℃だけど。もし負けなければ死ななくて済むでしょう。

特に危険な人

という訳でインフルエンザはいわゆる「カゼ」とは別格の重い症状をもたらしますが、特に高齢者や、若くても呼吸器・循環器・腎臓等に慢性疾患を持つ患者(喘息を含む)、糖尿病等の代謝疾患・免疫疾患を持つ患者などでは、インフルエンザにかかると容易に重症化し、肺炎等の重篤な状態につながって行きます。同時に元々持ってる病気も悪くなるので、そういった人達では入院や死亡の危険が増加する事になります。

小児の場合に特に問題になる事

「インフルエンザ脳症」という病態があります。

これは特に幼児を中心とした小児において、インフルエンザ罹患の後に急激に悪化する急性脳症の事です。具体的には意識障害,けいれん,異常言動・行動等の症状を起こします。流行規模にもよりますが、毎年50~200人のインフルエンザ脳症患者が報告されており、その約10~30%が死亡しています。死亡しなかった例でも、知能障害やてんかん等の重大な神経症状を残す事があります。多くの先生が今も研究に取り組み、いくつかの成果(例:インフルエンザ脳症ガイドライン;pdf注意;医者向けの文献なので一般の方にはちょっと難しいかも)を上げていますが、原因を含めて詳しい事がまだよくわかっていません。今のとこわかってるのは次のような点だけです。

  • 若い人に多い(10歳台とは限らない。ヒトケタ歳でもよく発生する)
  • だんだん重くなってとうとう発症するのではなく、初期段階でいきなり発症する。特に当初の2日
  • 発症予測因子がない(さほど高熱でないから大丈夫、とかは成立しない)
  • インフルエンザウィルスが直接脳に侵入している訳ではないらしい

しかし最も困るのは、

つまり、インフルエンザにかかった(特に)子供には誰にでも発症する可能性があり、軽症で済めばラッキー、重症化したらアウト、どちらになるかは運次第、というとても困った病態なのです。確立された治療法もありません。

だからインフルエンザにかからないようにする事、ワクチンで防備しておく事が重要なんです。

インフルエンザの診断

インフルエンザの症状は要するに「重いカゼ」ですから、特に比較的軽症な例では、症状だけを根拠とした診断はできません。見た目だけでは区別できないからです。

厳密にインフルエンザと診断するには、急性期の患者の上気道から採取した分泌液や細胞を検体とし、ウィルス培養を行ってインフルエンザウィルスの存在を証明する事になります。あるいは血清学的に抗体を証明するとか。でもどちらも確定まで時間かかりすぎ、そんな事やってられないので、近年は通常、外来で鼻腔または咽頭部ぬぐい液等を検体としたインフルエンザ抗原迅速検出キット(あの、鼻に突っ込むやつ)が使用されています。

後述する様にインフルエンザは早期治療こそ要なのですが、迅速検出キットはその実現のために大きな成果を上げています。

インフルエンザ迅速診断の様子

ただ、この「迅速キット」、いくら迅速と言っても流石にウィルス1匹から検出できるわけではありません。ある程度まで増えないと反応しないのです。その為には発熱後12~14時間は必要、とされており、「たった今熱出たばっかり!」という人では正しい結果が得られず、折角検査しても空振りに終わる事が多くなります。でも中には発熱後1~2時間で反応出る人もいますし、早期治療には早期発見が必須ですから、早くやった方がいいっちゃあいいんですが。

ま、あれ鼻痛いんで、特に小児にやる時は若干気が引けなくもないんですがね...

インフルエンザの治療

20世紀にはインフルエンザに対する特別な治療法というのはなく、対症療法が中心でした。つまり、体力勝負です。患者が丈夫な人ならいいのですが、そうでない場合、相当辛い目に遭った末、一部は死ぬわけです。しかしどんな重症例でも黙って見てるしかありませんでした。

抗インフルエンザウィルス薬の登場

しかし、21世紀に入って状況は一変します。ノイラミニダーゼ阻害薬(具体的にはタミフル,リレンザ)の登場です。これらの薬はインフルエンザウィルス粒子表面にあるノイラミニダーゼの働きを妨害し、ウィルス増殖を抑え込む仕事をします(“殺す”のではありません)。この観点から抗インフルエンザウィルス薬と呼ばれる事もあります。効果は劇的でした。

ただし、そういう作用機序ですからウィルスが増え切っちゃうと効果がなく、まだウィルスの少ない【発症後48時間以内】に使用する事がカギとなります。ですが、そこさえ守れば大変スピーディに状況を改善します。具体的にはそれまで1週間指くわえて見てるだけだった患者を、僅か1~2日でよくしてしまうのです。あまりに効くので、日本では2001年に保険収載されると同時に、瞬く間に広まりました。その後2010年に“イナビル”“ラピアクタ”の2製剤が加わり、2018年に“ゾフルーザ”(これはノイラミニダーゼ阻害薬でなく別の仕組みでウィルスを抑える)が登場して、2018年4月現在、このジャンルには5薬剤あります。

薬剤 使い方 特徴と欠点
タミフル 内服×5日間 最もよく使われ実績がある。小児にも使える。
飲み薬なので服用簡単。
ただしマスコミに「危険な薬」と騒がれた(後述)。
リレンザ 吸入×5日間 効果・歴史ともタミフルと同等。使用実績はやや少ない。
吸入薬なので、吸い方の上手下手で効果が変わる。
上手なら問題ないが、下手だと効かない。
基本的に小児用ではない。
イナビル 吸入×1回だけ 初日に1回吸うだけで終了なので服用が簡単。効きも早め。
小児にも使える。
吸入薬なのでやはり上手下手がある。 下手だと効かない。
大体8歳以下だと有効な吸入は困難ぽい(当院の経験)。
大人でも失敗例がしばしばある。
ラピアクタ 点滴×通常1回だけ
重症例は反復投与も可
点滴剤なので内服ができない人も使用可。
ただし最低15分以上かけて点滴する必要あり。
その間は(実質30分以上)病院にいなくてはならない。
前の人が点滴してると、その間待つ事になる。2人いれば1時間以上になりますね(隔離部屋が多くあれば話は別)。
ゾフルーザ 内服×1回だけ
初日に1回内服するだけなので簡単。効きも早め。
体重10kg以上なら小児にも使える。ただし粉薬タイプはないので錠剤が飲めないとダメ。
体重80kg以上の人は薬剤量が多く必要になるので価格がお高くなる。
2018.3月登場の薬で使用実績が少ない。

ただし弊院ではラピアクタは使っていません。すいません。

インフルエンザの対症療法

治療の中心はあくまでもタミフル等の抗インフルエンザウィルス薬ですが、種々の症状に応じて対症療法も付加されます。例えば痰が多ければ去痰剤、とか。

同じノリで「熱が高ければ解熱剤」と言いたいところですが、これにはちょっと議論があります。先述したインフルエンザ脳症の悪化因子として、2種の解熱剤、即ちジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン等)と、メフェナム酸(商品名:ポンタール等)の関与の可能性が指摘されており、特に小児にはこれらの薬剤は使用しない、という事になっているのです。他の解熱剤にはそういう指摘はないのですが、もともと小児では(インフルエンザでなくても)できるだけ解熱剤は服用しないのが原則であり、ましてやインフルエンザではこれを避けるのが一般的です。

大人では「解熱薬は危険である」という根拠はありません。ただし同様の連想から、少なくとも当院ではなるべく処方を避けています。正しく抗インフルエンザウィルス薬を使えばかなり早く熱が下がるので、あまり必要もありませんし。

どうしても解熱剤が必要な場合は、小児も大人もアセトアミノフェン(商品名:カロナール等)一択となります。ただしこれ、解熱剤としてはあまり効きません。

タミフルは危険な薬なのか

2018年5月、ようやく「タミフルといわゆる異常行動との間には因果関係がない」との宣言が厚労省から出され、2018/08/21から正式に10歳代へのタミフル投与制限が解除されました。
 既に2016年に0歳児への投与制限もなくなっているので、これを以て全年齢の人にタミフルを投与できます。
 従って以下の記述はもう古いのですが、改訂作業が間に合わないのと、「なぜ関係ないと言えるのか」の根拠資料として当面残しておきます。
 ただしこれは、「異常行動はインフルエンザそのものがもたらす症状の一部なのであって、特定の薬による副作用ではない。従ってどの薬を飲む飲まないに全く関係なく起きる」という話であり、今後も以下の注意が必要な事には全く変わりありません。

インフルエンザにかかった未成年患者(10歳代とは限らない)は、少なくとも当初の2日間、決して一人で放置してはいけない。

 この点はよろしくお願いします。(2018/09/17追記)

もうこれだけでも語り出すと一晩かかる話題ですが、要点だけ。

2007年頃から、「子供がタミフル飲むと異常行動が出る!」「ビルから飛び降りる!」「道に飛び出す!」「タミフルは危険だ!」「リレンザなら安全!」って、主としてマスコミ方面の人達がさんざん騒いでいましたよね。このため、2007/03/20、「タミフルは10歳代の人には飲ませないように」との「お達し」が厚生労働省から出されました。そしてそれは2015/09/13現在でも解除されていません(→【注・追記】 2018/08/21解除されました)

では、その「異常行動」、本当にタミフルのせいなんでしょうか。

マスコミの言う「異常行動」って...

先述したインフルエンザ脳症の事を思い出してみて下さい。タミフル登場(2001年2月)よりも前、1999年に日本でインフルエンザ脳症について調査したレポートがあります。ここにはこの様に報告されています。

  • インフルエンザ脳症は若年者に多い。
  • インフルエンザ発病早期(平均1.4日)に発生する。
  • 意識障害が最も多いが、異常行動も見られる。

あれ? 「タミフルがらみ」として報道されていたのと同じ話ですね。でも、このレポートにある患者達はタミフル飲んでません。何しろ、1999年にはまだタミフルないんですから。

その後も調査は続き、時代は下って2009年9月時点でのレポート(pdf注意)も報告されています。この中から脳症の症状をいくつか引用してみましょう。

  • 両親がわからない、いない人がいると言う(人を正しく認識できない)
  • 幻視・幻覚的訴えをする
  • 意味不明な言葉を発する、ろれつがまわらない
  • 自分が知らないうちに、靴をはいて外に飛び出し、小川に飛び込もうとした
  • 高いところから、飛び降りようとした
  • 夜間に母親を包丁をもって襲おうとした

やっぱりなんだかどっかで聞いたような症状ですね。

タミフルを使うと「異常行動」は増えるのか?

マスコミの騒ぎを受けて、公的な研究チームがタミフル服用群と非服用群の比較調査を行い、結果が発表されています(pdf注意)。これによるとタミフル服用群は明らかに様々な合併症も少なく早く治りますが、異常行動の総発生頻度は両群で差はないという結論でした。つまりタミフルを飲んでも飲まなくても、同率で異常行動があるという事です。

こういった調査はその後も続けて行われています。たとえば2010年3月までの例をまとめたこの資料(pdf注意)を見てください。以下はその抜粋です。

インフルエンザ後の異常行動_2008

このグラフは2008-2009シーズン(いわゆる“新型”登場前で、「10歳台にタミフル飲ますな」って話になった後)の、異常行動を起こした全国179例が使っていた薬の内訳です。この図で「アセトアミノフェン」とは解熱剤で、抗ウィルス剤ではありません。

これ見ると異常行動を起こした人の内、タミフルを使っていた人が26%、リレンザ使用例が10%、どちらの抗ウィルス薬も使っていなかった人が32%です。この年は「お達し」を受けて何も薬使わなかった人が比較的多かったシーズンですが、これだと抗ウィルス薬(以下、単に“薬”と表記)使わなかった人の方が異常行動が多い、って事になっちゃいますよね。

でもこれは軽いのも重いのも含めた、「全ての」異常行動を集計したグラフです。薬を使わない人は軽い異常行動で済み、薬を使うともっと重大な異常行動が頻発するのかもしれないじゃないですか。見てみましょう。

インフルエンザ後の重い異常行動_2008

これ↑は同じ時期(2008-2009シーズン)の、「突然走り出した」「飛び降りた」という、致命的な事故になりかねない重大異常行動87例に絞って、同様の分析をした物です。タミフルを使っていた人が22%、リレンザ使用例が13%、どちらの抗ウィルス薬も使っていなかった人が37%です。重大例に絞ってもやはり「薬使わなかった人」の方が多い、いや寧ろ、前のグラフと比較すると「飲まないと重大な異常行動が増える」という事になります。

何かもう結論出たような気もしますが、その後の事も見てみましょう。

上の2つのグラフの後、2009年4月に新しいA/H1N1、いわゆる「新型インフルエンザ」が登場しました。インフルエンザ罹患者がどっと増え、「他に治療法がないから」との理由で厚労省も「新型なら10歳台にもタミフルを使用して良い」と言い、マスコミも他に格好のエサができたので興味をなくした やむを得ない事情だからと目をつぶったのか、それまで連日盛んに「タミフル危険!」と煽ってたのがウソの様に何も言わなくなりました。患者さん達は我も我もとタミフルを欲しがり、薬局では不足騒ぎも起きました。

ただやっぱり「タミフルは危険!」と思い込んで拒否する人も多かったので、全国的に10歳台にはリレンザの処方が増えました。それは2014年の今も続いています。更に、タミフルでもリレンザでもない別の抗インフルエンザウィルス薬(イナビル)も登場してきましたが、マスコミはこれについても何も言いませんでしたので、イナビルも処方例が増えました。

では、2015/09/13時点で最新のデータ、2013-2014シーズンに異常行動が報告された全100例の分析を見てみましょう。これはイナビルも登場から3年経ち、すっかり普通に使われるようになった時点でのデータという事になります。

インフルエンザ後の異常行動_2014

この分析ではタミフルを使っていた人が計13%、リレンザ使用例が6%、イナビル使用例が10%、どの抗ウィルス薬も使っていなかった人が14%です。やはり「各種薬剤間には差がある。タミフルだけ危険だ! 使わなければ安全だ!」と主張するのはどうも難しい感じですね。では重大な異常行動に絞るとどうなるでしょうか。

インフルエンザ後の重い異常行動_2014

60例の「突然走り出した」「飛び降りた」という重大異常行動について分析すると、タミフルを使っていた人が17%、リレンザ使用例が4%、イナビル使用例が7%、どの抗ウィルス薬も使っていなかった人が15%です。2008-2009シーズンの分析と同じですね。

「10歳代が危険!」は、本当?

何かもう飽きてきましたが、もう1つだけデータ見てみましょう。マスコミは「10歳代が危険!」「また10歳代でタミフルの犠牲者が!!」と騒いでいました。これは本当でしょうか。

上のグラフは2010~2014の各シーズンに於いて、「異常行動」を起こした児の年齢分布を1歳刻みで見たものです(ただしこれは「異常行動」全例であり、タミフル飲んだ児だけのデータではない)。マスコミの垂れ流しを信じるのではなく、ちゃんとデータを見さえすれば一目瞭然。実は多いのは1ケタ年齢であり、「10歳代は危険!」というのは、完全なガセです。

ではなぜ、「異常行動」が多いはずの1ケタ年齢ではあまり「事故」の報告がないのでしょうか。これは私の考えですが、答は明白です。1ケタ年齢のちっちゃい子が熱出してうなってたら、放置してどっか行っちゃう親はあまりいないからです。

ここまでのまとめ

さて、話も長くなったので結論行きましょう。

  • 「リレンザなら安全!」はウソ。リレンザにもタミフルと同等の異常行動報告がある。
  • マスコミが「リレンザは安全」と言っていたのは、異常行動の発生ではなく、件数を比較して言っていただけ。リレンザの使用が増えると、必然的に異常行動の件数も増える。
  • イナビルも全く同等である。重大例の「件数」だけ言ったらタミフルより多いくらい。
  • マスコミ流に「件数」だけを比較するならば、「薬を使わないのが一番危険である」という結論にならなければおかしい。
  • でも、マスコミは新型登場以来、「異常行動」の件を全然報道しないし、こういった「その後の分析」についても全く何も言わない。それまであんなに騒いでたのに。
  • そもそも「異常行動」が多いのは1ケタ年齢の児たちである。マスコミの言うような10歳代ではなくて。
  • つまり、マスコミはタミフルがらみの報道についても、やはりマスコミだった。

もっと許せない事があります。マスコミのクズ共は、「新型」インフルエンザにかかったけどタミフルを飲まずに亡くなってしまった12歳の子供を見つけて「飲ませなかった医者が悪い」とか言い出したのです<注:当時の生記事が消滅してるので、事件の概況を書いた記事にリンクしています>。今まで視聴率(=広告収入)欲しさにことさら危険を喧伝して人の耳目を集め、その為に薬飲めなかった子供が死んだら今度は医者のせいにした訳ですね。奴らは自分のしてる事に何の罪も感じないのでしょうか。マスコミ人ってよく平気で息できるな。

...どうも私が書くと、マスコミの悪口が主体になってしまっていけません。もっと学問的で格調高い論説を読みたい方は、こちらの先生の記事をどうぞ(マジオススメ!)。

それにしてもあれほど「危険!」と煽って10歳代タミフルを禁止に追い込んだ連中は、新型登場以来一体どこ行っちゃったんでしょうね。ま、最近ではほとぼりが冷めたと見たのか、またぞろ蠢き出しているようですが。

新型インフルエンザの死亡例数、世界との比較

次に個々の事例ではなく、社会防衛の観点から考えてみましょう。この場合に重要なのは、

「タミフル使わないのと、使ったのと、結局トータルでどっちの方が総死者・重症者が減るのか」

という問いであるはずです。

冷たい事言いますが、仮に一億歩譲って「タミフルには時として致死的事故につながる異常行動の副作用がある」としましょう。だがそれで10人亡くなったとしても、薬を使わないと死んでしまった筈のインフルエンザ患者100人が救えるのなら、社会にとっては「薬使った方が有益」となります。差引90人は死者が減るからです。

これも結果だけ見ましょう。

上でさんざん述べてきたように、2009年の新型インフルエンザ登場まで、マスコミは「日本は世界で一番タミフルを使っている! こんな危険な薬を! 異常だ!」と日本の医者を叩いてました。しかしほとんどの医師はそんなの相手にしないで、自分できちんと調べて、納得して、黙々と治療を続けてきました。そこに新型インフルエンザが登場したら、その致死率はこうなりました(これは死亡診断書的な意味での統計)。

  • 世界的には先進国でも0.5~1%
  • 日本では0.02~0.05%

日本は死亡率世界最低だったのです。文字通りケタ違いでした。重症化し入院に至る率も同様に最低になりました。そんな「危険な薬」をバンバン使ったはずなのに。既に触れたようにマスコミは全然報道しなかったけど、いわゆる「服薬後の異常行動」はむしろ増えたのに。

無論、死者が少なかったのはタミフルばかりの手柄ではなく、理由は複数あるのだろうと思います。しかし、「世界一タミフル使う国は死者も重症者も世界最少になり、社会が守られた」という事実は認めなければならないと思います。

ほぼ結論

言うまでもなく最重要なのは、事故死であれ病死であれ、インフルエンザにまつわる不幸な事例を少しでも減らす事です。ちょっとキツイ言い方ですが、子供の飛び降りだの飛び出しだのは、ましてやそれによる死亡は、周囲の大人がちゃんと気をつけていればかなりの確率で防げる事故の筈です。だが病死はそうではない。飛び降り事故(ざっと見て200万人に1人)よりもインフルエンザそのものによる死亡や危険(ざっと見て数千人に1人)の方が遙かに上回ります。

それでもイヤだという人は別に無理に服用しなくても結構ですが、ここまで読んで下さった方には、我々がどうすればいいかは自明であろうと思います。

事務的な話

実は「10歳代にタミフル飲ますな」という例の通達2015年の今に至ってもまだ取り消されていないのです(→【注・追記】 2018/08/21解除されました)。いまだにこんな事言ってる人もいるしね。

だから当院でも、10歳代の人がタミフル等の抗インフルエンザウィルス薬を希望した場合、必ず保護者に同意書を書いていただく必要があります。馬鹿馬鹿しい話ですが仕方ない。(→【注・追記】 2018/08/21以降必要なくなりました)

 

※重要な注意※

タミフル等の服用の有無にかかわらず、全てのインフルエンザ患児に脳症は起こり得ます。脳症は最初の2日間に特に集中します。従って小児・未成年者では、少なくとも当初の2日間は患者を一人で放置しないよう、保護者の方には充分な注意をお願いします。 それは「飛び降り事故」防止にもつながります。

インフルエンザの予防-基本的な事

どんな病気も、かかってから治すより、最初からかからない方がいいです。インフルエンザも然り。

では具体的に、どんな予防をすればいいでしょうか。

最も基本的な事は、人混みに出ない事

流行期になると、そこらじゅうにインフルエンザ感染者がいて、あなたにうつす機会を待っている状況になります。そんな中でできるだけ感染機会を減少させるには、できるだけ人混みに出ない事が重要です。反対に社会から見れば、できるだけ人混みを作らない事です。

具体的な事例を挙げましょう。1918~1919年にかけて、強毒型A/H1N1インフルエンザ、通称 “スペイン風邪” が流行しました。当時の「新型インフルエンザ」です。アメリカを起点として瞬く間に全世界に広がり、6億人の感染者と5000万人の死者(諸説あり)を出す大惨事になりました。死亡率は約8%という事になり、災害や戦争による死亡率を軽く超えてしまいます。ちなみに通常我々が(日本で)経験するインフルエンザの死亡率は0.1%未満です。いかに超怖いインフルエンザだったかわかるでしょう。

アメリカでのスペイン風邪

上図はこのスペイン風邪に関する、業界では有名なグラフです。1918年のアメリカ主要都市の死亡者数を週毎(週毎、ですよ!)にグラフ化したものです。図中に示した3都市を比較してみましょう。

フィラデルフィア(Philadelphia)は一気に感染爆発し、あれよあれよと死者が増え、最大1週間で5,000人以上が死亡しました。葬儀屋さんは大変だったでしょうね。あまりに死んだので人口は激減、都市は壊滅、それ以後死ぬ人すらいなくなったので、約1.2ヶ月で死亡者数は収束しました。

ピッツバーグ(Pittsburgh)はフィラデルフィア程の爆発はなく、週毎では最大でも半分程度の死亡率でしたが、流行が長く続き、結局総死亡者数はフィラデルフィアとあまり変わりませんでした。

セントルイス(St.Louis)は最初から最後まであまり死者が出ていません。ただし最後の方に小さな山があります。

この差はどこから来たのでしようか?

実はフィラデルフィアは軍の町で、当時は第一次世界大戦の戦勝に沸き、スペイン風邪の流行にもかかわらずパレードが盛んに行われました。見物客も多く出て、人混みができました。そういう集会をやめる動きはほとんど取られませんでした。→ 人混みを媒体として感染爆発を招き、病院はパンクし都市機能も麻痺しました。 → それが原因でまた相乗的に死者増加。 → 都市の壊滅に至りました。

ピッツバーグは患者が増えてきた初期にまず劇場を閉鎖させましたが、その他は閉めず、感染者が増えるに従いスポーツ大会→教会と順次閉めて行きました。しかし、学校はかなり後までなかなか閉めませんでした。もともと、新型インフルエンザ登場時には、死者・感染者は若者に多い傾向があります(これは2009年の新型でも同じでした)。結局、感染爆発のスピードこそ落ちたが、ウィルスは住民を培地として確実に生き延びて増殖、各種の人混み、中でも学校を媒体として感染者が増え、長期に流行が続いて総数では変わらない位死者を多く出しました。

セントルイスは最初の死者を出した瞬間、市長が非常事態宣言を出し、学校を含む全ての人混みを閉鎖しました。結果、感染者も増えず、当然死者も増えず、都市機能も正常のままで市民の生命は守られました。

3市の違いはこの違いです。これを見たらインフルエンザから社会を守るには何が大事か、小学生でもわかりますね。

セントルイスにはちょっと後日談があります。他都市に比べて被害が抑えられてたセントルイス市民達は、それが市長の英断のおかげである事を理解せず、経済的影響を強調して「大して被害も出てないのに何でも禁止しやがって」と市長を激しく叩いたんだそうです。このためもあって非常事態宣言は1.5ヶ月後に解除されましたが、最後死者がちょっと増えた山は、その後来たものです。 なんだか真っ当な政策取ってた総理大臣を漢字読み間違えたとか言って叩いて辞めさせたらこんななっちゃった東洋の某国みたいですネ!

次に大事なのは マスク・手洗い・うがい

でもまぁ、普通に社会生活を送っている人なら、現実的には冬の間全く外に出ません、という訳にもいかないでしょう。だから「他人と会ってもうつさない・うつされない」対策が必要です。具体的には感染者がウィルスを外に出さない、未感染者はウィルスを身体に入れない対策です。そのためにはまずインフルエンザの感染ルートを知る必要があります。

インフルエンザの主な感染ルート

インフルエンザは、主として飛沫感染(咳・くしゃみからの感染)です。他に空気感染(咳・くしゃみの飛沫が漂って感染)や接触感染(ドアノブとか)などもあります。つまり、

  • くしゃみ飛沫は大体1~2mは飛ぶので、他人とは最低1~2m離れるようにしましょう
  • ドアノブも触っちゃダメ

...って、無理ですね。従って第一に大事なのはマスク,次いで手洗いです。うがいの効果にはいろいろ疑問も提出されていますが、タダ同然のコストでできるし、少なくともやって損はしません。

マスクについて

普通のマスクで充分です。ただし布よりは紙製で。どちらにせよ最も大事な事は、一回装着したら使い捨てにする事です。マスクの特に外側面は、ウィルスが相当付着していると考えるべきです。ベタベタ触ってはいけません。ましてや取っといて次の日また使ったんじゃ、全く感染防御になりません。

2009年の新型インフルエンザ登場の時、マスクの買い占め騒ぎが起き、特に“N95マスク”がもてはやされました。見た事ある方も多いでしょう。こういうやつです↓。

N95マスク

これは確かにいいです。でもこれ、本来プロ仕様のマスクでして、正しく使うにはいろいろコツが要るし、モノ通さないためのマスクだから息苦しいし、何より高価なので使い捨てするには厳しいです。はっきり言って素人向けではありません。それを一般の方が争って買ってるのを見て、当時ちょっとびっくりしたものです。肝心な事はマスクの種類ではなくて、感染症に対する正しい理解です。どんなマスクを付けるのであれ、理に適った使い方をしなければ全く意味を成しません。

手洗いについて

手洗いは「流水で1分以上」が合い言葉です。でないと効果がありません。しかし無意識に手を洗った場合、大抵の人は30秒程度で「もう充分」と感じてしまうそうです。従って手を洗う時は、「まだやんの?」位までやる事。

洗った手を拭く時は、吊しの布タオルでなく紙タオルなどを用い、その都度いちいち捨てるのも肝心です(理由はマスクを使い捨てにするのと同じ)。

刷り込み式エタノール製剤

外出時など手を洗う設備のない所では、充分量の刷り込み式エタノール製剤(↑こういうやつ)もよい効果があります。新型登場以来、公共施設の玄関などによく置いてありますね。

石鹸も意外に有効であり、手洗いだけでなく、石鹸で顔や頭髪を定期的に洗浄するのは予防に効果が大きいと言われています。

咳やくしゃみをした後は

もしインフルエンザにかかってしまって、 咳やくしゃみが出てしまっている人は、まずマスクをする事が基本です。が、それでも出ちゃう鼻水やツバはティッシュで受けてすぐ捨てましょう。

インフルエンザウィルスはRNAウィルスであり、DNAを持ちません。よって、他の生物細胞に寄生しないと増殖できず死滅します。鼻水やツバ中にはウィルスがたっぷり入っていますが、それをティッシュやマスクで捕獲し、正しく捨てて他生物への寄生のチャンスを与えなければ、ただそれだけでウィルスは殺せるのです。捨てる前にティッシュに殺ウィルス性の消毒液ぶっかければなお良し。面倒臭い話ですが、感染を広げない事の要は、本当にただそれだけの事なんです。基本が一番大事です。特別な手法なんてありません。ましてや2009年にもいっぱい涌いて出た「××が効く!」なんてのは詐欺以下です。マスコミさん達はいろいろ踊ってましたけどね。 ( ´,_ゝ`)プッ

インフルエンザの予防-予防接種

現実で最も重要な防御は、予防接種

マスク・手洗い・うがい。とても大事です。人混みに行かない事も大事です。でも実際には、現代社会でこれらの注意を細大もらさずやり通すのは、実はかなり難しいです。また、どんなに注意していても、完全に感染を防御する事はできません。あなたの周りにはウィルスがいっぱいいます。それを100%寄せ付けないって事は無理なのです。

だからこそ、「ウィルスが来てもいいように」しておかなければなりません。そのために最も重要なのは、正しく予防接種しておく事です。

インフルエンザワクチンに対する誤解

ホントにもう、一体何度こういう話をする事になるのでしょう。ワクチンに関しては日本はもはや恥ずかしいを通り越すレベルの後進国で、ありとあらゆる誤解がまかり通っていますが、これはインフルエンザに対してもそのままあてはまります。例によってマスコミだのこんな人達だのの妄言のせいで。

別にやりたくない人はやらなくていいんですが、普通の人が騙されて、回避できたはずの危険にさらされるのはどう考えても正しくありません。だから以下誤解を正していきます。日本は科学の国です。正しい知識を持ちましょう。

インフルエンザワクチンの作り方

【誤解その1】-「インフルエンザワクチンをうつと、インフルエンザになる」

現在日本で使われているインフルエンザワクチンは、インフルエンザウィルスを発育鶏卵に接種して増殖させ、それをエーテル処理等で分解、先述したヘマグルチニン(略称:HA)部分を主成分として回収し精製した、不活化ワクチンです。早い話がウィルスのバラバラ死体の一部分を集めたものです。

勿論こうなったウィルスは生きていませんから、インフルエンザとしての病原性はありません。巷間よく言われる誤解の一つ、「インフルエンザワクチンを接種すると、インフルエンザにかかる」という事はあり得ません。そう主張する人は「バラバラ死体の手が飛んできて、首を絞められた」と真顔で言っているのと同じです。

ワクチンの効果と限界

【誤解その2】-「インフルエンザワクチンなんか効かない」

いくらワクチンをうったって、ウィルスが身体に入ってくる事自体を防げるわけではありません。ウィルスは空気中を飛んでるわけですから、身体に入れないためには息をしないしかありません。死んじゃいますね。つまりインフルエンザワクチンは感染や発症そのものを完全に防御できる訳ではありません。それは確かにそうです。

ではなぜ接種するのか。インフルエンザワクチンは、ウィルスに感染した時に症状を軽減する為に、つまり重症化させない為にうつのです。もし被接種者がウィルス感染しても、「自分で症状を感じないほど」症状が軽くなったとしたら、その人は「かからなかった」と言うでしょう。感染した事に気がついてない訳ですから。それが一番「いい効き方」ですね。でもそこまでいかなくとも、本来死の危険や非常にキツイ症状に晒されるはずだったものが、接種によって数日の休養で済むようになったなら、それは全然「無駄」ではないと思われます。

具体的にはどの位の効果があるのでしょうか。実地のデータを見ると、以下の如くです。

ワクチン接種をすると、接種しなかった場合と比べて、

  • 65歳未満の健常者については、インフルエンザの発症を70~90%減らす
  • 65歳以上の一般高齢者では肺炎やインフルエンザによる入院を30~70%減らす
  • 老人施設の入居者は、インフルエンザの発症を30~40%、肺炎やインフルエンザによる入院を50~60%、死亡する危険を80%、それぞれ減少させる

このように、インフルエンザワクチンの効果は100%ではありません。しかし明らかに危険を減らします。「100%じゃないから意味がない」と言う人は、「道渡る時に、青信号でも横から車が突っ込んでくる事はあるから、信号なんか守っても意味はない」と言ってるのと同じです。

インフルエンザワクチンの副作用

【誤解その3】-「インフルエンザワクチンは副作用が強くて危険」

ワクチン否定教信者の皆さんは、ことさら“副作用”を強調されます。曰く、「ワクチンうったら腫れた」「熱が出た」「ショックを起こした」「死んだ」等々。

では彼らの言うこれは、本当にワクチンの副作用なのでしょうか。

  • 「ワクチンうったら腫れた」「熱が出た」について

そもそもワクチンとは、免疫を付ける為にやるものです。免疫の本質の一つは、「一度戦った相手(病原菌)の事は覚えている」という事です。これにより、既に経験した病原菌にもう一度遭遇した場合に速やかに対処できるので、我々は同じ病気にはかかりにくく、かかっても重症化しにくいのです。

ワクチンは謂わばこの「戦った経験」を事前に積ませるものです。従って当然、接種すればその「戦った反応」が起こります。具体的には局所の腫脹や発熱です。つまりコレ、ワクチンの副作用ではなくて、寧ろ起きて当然の反応なのです。これは極論ですが、そういう反応が全く起きないワクチンは効いた事になりません。

そして何よりもそれよりも、それなりに致死率のある病気にかかるのと、病気は防ぐが接種部位がちょっと腫れるのと、どっちの方がより危険なのか、日本人はまだわからないのでしょうか。

だが我々の国は、不幸にしてマスコミがアレ過ぎて、こんな簡単な原理も理解できずに「ワクチンうったら腫れた」とか大騒ぎを繰り返しているわけです。やれやれ。

  • 「ワクチン接種後に死んだ」について

たとえ話をしましょう。「黒猫を見た。その後車に轢かれた。事故は黒猫の呪いに違いない!」こんな事を大声で叫ぶ人がいたら、貴方はどう思いますか。

現代に生きる我々は、事故の原因は黒猫の呪いではない事を知っています。21世紀にもなってまだ「呪いに決まっている!」と叫んで譲らない人を見たら、多くの人は肩をすくめて相手にしないでしょう。「非科学的」と嗤ったりするかもしれません。でも昔の人には、「黒猫の呪い」は“常識”でした。

それが否定され、呪いなんて無い事が“常識”になったのは、そんなに昔の事ではありません。一体どうやって我々は「事故は黒猫の呪いではない」って事を理解してきたのでしょうか。

科学的な態度に従って言おうとするならば、実験をするか、それができない場合は統計を根拠に言うしかありません。つまり【黒猫を見た後事故にあった】グループと、【黒猫を見ないで事故にあった】グループを比べ、事故発生率に差がない事がわかれば「黒猫は事故に関係ないだろう」と結論するわけです。反対に前者が後者より明らかに事故率が高ければ、「黒猫を見ると事故にあう」という強い推定になります(実はこの他に更に「因果関係と相関関係」という悩ましい問題があるのですが、ここでは触れません)。この評価をするためには、充分な数の事故例を集めなければなりません。少なくとも数百例は必要でしょう。1例2例では「ただの偶然」という可能性を排除できないからです。そしてそういう努力を積み重ねてきた結果、我々は「事故は黒猫の呪いではない」という事実を理解し、新しい“常識”を手に入れてきたのです。そりゃ世界中には黒猫を見た後に事故にあった人も何人かいるだろうし、これからも出るでしょうが、現代の我々はそれはただの偶然で因果関係ではない事を理解できます。

さて、「ワクチンをうった。その後死んだ。死亡はワクチンの副作用に違いない!」こんな事を大声で叫ぶ人がいたら、貴方はどう思いますか。

現在では、ワクチンの安全性は世界中で何度も何度も証明されています。100万人に1人程度の割合で重篤な神経系の健康障害を生じ、後遺症を残す例も報告されていますが、それが本当にワクチンの副作用なのかどうかはわかりません。数が少なすぎて検証できないからです。勿論非常にまれにはワクチンの成分に強く拒絶反応を起こすような、特異体質的な方もいらっしゃるでしょう。だがそういう希な例を挙げて社会としてワクチンを葬ってしまうのはあまりに残念です。そういう危険はインフルエンザ自体の危険に比べて、非常に小さいからです。

この話を読んで、なお「ワクチンは怖い」と思う方は、別に接種しなくて構いません。特に日本では、科学的分析や実験事実によってでなく、宗教的な思い込みからワクチンを敵視する人がいまだに多いのは事実です。そういう人はご自分の信ずるところに従って生きて下されば結構。ただし、科学に従って生命の危険を回避しようとしている人、特に子供の、邪魔をしないでください。これだけはお願いします。

現在のインフルエンザワクチンの問題点

もちろん、人類の技術的限界により、現在のインフルエンザワクチンは決して完全なものではありません。今後解決されるといいなぁと思う課題もあります。

  • 既述のごとく、インフルエンザウィルスは頻繁に変異を起こすため、流行毎に今までと違う新しいウィルスとなってしまう。従ってワクチン生産に当たっては、次シーズンに流行りそうなウィルス型を的確に予測して作らねばならず、患者側もそれに合わせて毎年毎年接種しなおさないといけない
  • この「予測」はなかなか困難で、大きくはずれた場合は、ワクチン接種をしても実際に流行するウィルスに対しては大した効果を持てない。
    (ただし最近の「予測」はかなり正確になってきており、そういう事態はほとんど起こっていません。)
  • 一般に不活化ワクチンによって得られる免疫は時間とともに減弱するが、インフルエンザワクチンの場合もまた然りで、且つ他ワクチンと比べても比較的短い。いわゆる“賞味期限”、即ち有効な防御免疫の持続期間は、普通に考えて5~6ヶ月、厳しく見ると3ヶ月程度しかない。だが実際の流行がいつからいつまでかを事前に予測する事は困難なので、「いつ接種するのがベストか」について、明確な答を得られにくい。
  • 既述のごとく、現行ワクチンの感染防御効果や発症阻止効果は100%ではないので、ワクチン接種を受けてもインフルエンザに罹患する場合がある。この場合、患者はウィルスを外部に排出し新たな感染源となるので、もし全員が接種を行ったとしても社会全体のインフルエンザ流行を完全に阻止することは難しい。
  • 特にA型インフルエンザは、ヒト以外にトリ、ブタ、ウマなどを自然宿主とする人獣共通感染症なので、ヒトだけが予防をしまくっても、トリやブタから新たなインフルエンザが登場してくることを防ぎ得ない。つまり根絶はできない。
  • インフルエンザの確実な感染防御には、気道粘膜免疫に直接免疫を持たせる事が合理的であり、また発病からの回復過程には細胞性免疫が重要であるが、(日本で)現在使われている皮下接種ワクチンでは、これらの免疫はほとんど誘導する事ができない。

現在のインフルエンザワクチンは、確かにこのように不完全です。将来もっと改善される事を望みます。しかし既述のごとく、今のワクチンでも、特にハイリスク群に対するワクチンの効果は明らかに証明されているし、皮下接種でも血中の抗体産生は十分に刺激できる事がわかっています。「効果が不完全だから接種しない」というのは、「どんな地震でも絶対に壊れない家ができるまで野外で暮らす」というのと同じです。私はそんなの全然合理的じゃないと思うんですけどね。

具体的なワクチンについて

2014年秋~2015年始シーズンまで、世界で使われているワクチンは、A型について2種(いわゆる“新型(H1N1)” + “香港型(h4N2)”)とB型について1種、計3種のインフルエンザ対策が含まれたワクチンでした(正しい用語としては「3価ワクチン」といいます)。

しかし昨今の流行情勢を鑑み、2015秋シーズンからB型についてもう1種追加され、A型B型それぞれ2種ずつの、合計4種のインフルエンザ対策が含まれたワクチンになりました(「4価ワクチン」といいます)。

これで大体の流行株はカバーできます。ただし、その増えた分だけ製造原価が上がり、ワクチン代は値上がりとなってしまいました。申し訳ございません。

接種にまつわるもっと具体的な事はワクチンページ内のここに書きました。ご参照ください。